
西日本を中心にその勢力図を急激に広げ、業界の王様「ガリバー」の座を脅かしている中古車業者があります。
「BIGMOTOR」(以下、ビッグモーター)というその会社は土俵の西日本を飛び出し、今や関東圏や東北にまでその店舗を展開するようになり、人気俳優佐藤隆太さんが巨大化して登場するテレビCMも話題になっています。
ビッグモーターとはどんな会社?
まずは、この成長目覚ましい会社がどういった経緯で誕生し、どうその存在感を出してきたのかなど、生い立ちについて知っていただきたいと思います。
意外に歴史は古い
ビッグモーターがその名を全国区にまで高めてきたのはここ数年の話ですが、この会社自体は創業40年以上、中古車大手としてはなかなか深い歴史を持つ会社です。
発端は山口県、母体となった岩国市の「兼重オートセンター」は、1976年に現社長でもある兼重宏之氏が個人で開業した、ゴクゴク小さな中古車店です。
当初は九州・中国・四国を中心に、着実に店舗数を増やし勢力を広げたビッグモーターに、大きな転機が来たのは2005年。
関西圏では絶大な知名度を誇っていた老舗中古車チェーン、「ハナテン」を事実上の支配下に置いたことでしょう。
「8710」という店舗看板を掲げ、大阪府民なら誰そも口ずさめる特徴的なCMソングと、セクシーな女性が登場する、奇抜なコマーシャルで名をはせた同社。
人気テレビバラエティー、「秘密のケンミンSHOW」でも取り上げられ、全盛期には新車販売店や、畑違いのレンタルビデオ店にまで手を出すほど多角経営をしていましたが、2000年代に入ると大失速、そこに目を付けたのがビッグモーターでした。
ハナテン吸収後の勢いそのままに…
ハナテン吸収当初は、その知名度を考慮して大阪を中心に残っていたハナテンフランチャイズ30店舗は、そのまま「8710」屋号を使用。
ハナテンが運営しているカーオークションにどんどんと従来店舗で買い取った車体を流し売りさばいていたビッグモーターでしたが、同時にこの頃から自身の店舗を拡大し始めます。
郊外を中心に広い販売ブースを構えた中古車直販店を展開、その店舗の中に車検工場や板金工場も併設し、「車のことなら何でもお任せ」という中古車のオールインワン店舗をこれまでの西日本だけでなく、神奈川県や千葉県を皮切りに、関東・東北にも出店を開始します。
中古車買取業界のトップに迫る成長
2010年あたりから新規店舗の展開スピードを速めたビッグモーターは、最も多い年には年間50店舗もの新規店舗をオープン。
その数は、2017年5月現在準備中のものも含めると、全国296店舗に達しています。
本社も2015年には東京の六本木ヒルズに移動、同年知名度確保も十分にできたと判断したのかハナテンを完全子会社化し、その看板を完全に「BIGMOTOR」に塗り替えます。
大型店舗の販売力はすさまじく、店舗数ではまだ遠く及ばないガリバーを抜き、2013年4月から2016年3月期まで3年連続中古車販売NO.1。
グループ売上高2,100億円超も業界最大手ガリバーに迫る勢いであり、今後もその成長は止まりそうもありません。
「高い」と評判の買取査定はどうなのか

ここからはネットなどでは「高い」といわれている中古車査定について、実体験も含めてその真偽に迫っていきたいと思います。
ビッグモーター査定のプラス要素その1・・・販売数の多さ
「売れるなら買う」というのは、中古・リサイクル業であれば至極当然のことです。
しかし、これが、ビッグモーターが持っている最もわかりやすい強みと言えます。
通常、買取した車両は2つのパターンで中古車市場内を流通しますが、1つは業者専用のオークション会場に持ち込み業者間で転売、利ざやを得るタイプです。
これは買取業者にとって最も手っ取り早く利益を生む方法で、過去はこちらの方が主力でした。
オークション会場に出品した車両を仕入れるのは、買取業者と同じ車のプロ、買取した車に対して手を加えない状態でも相手が勝手に商品化・販売をするので、小規模買取業者は、
- 整備工場・整備士
- 板金工場
- 洗車や商品管理スタッフ
などといった、経費のかさむ余計な設備投資をしなくてよいからです。
ただし、1台で得られる利益は直販に遠く及ばないため、併せて買取査定額はできる限り低く抑える必要が出てきます。
一方、もう1つの流通パターンは、買取した車両を自社で商品化、直接販売して利益を上げる方法です。
こちらの方が、仕入れた車両に利益を自社の判断と市場相場に応じて上乗せできるため、1台当たりの利益は、オークション出品より大きくなります。
しかも、オークション転売では、
- 会場使用手数料
- 会場までの陸送費
- 落札されなかった際の再出品費用
などの中間マージンが発生するため、それも買取査定では考慮する必要があります。
ですので、基本的なことだけ言えば、直販型といわれる買取業者の方がオークション転売型よりも高い買取査定を引き出せる可能性があります。
ただし、上記で触れた商品化のための設備投資が必要なので、ある程度強靭な資金力と店舗数や販売ブースの確保などで販売力を高めることが不可欠です。
ガリバー含め大手の中古車買取業者も確かに直販をしてはいますが、ビッグモーターの規模ははるかにそれを凌駕、自社が誇る販売ネットワークで仕入れた買取車両を売り抜いてしまいます。
更に、ビッグモーターは自社で板金も修理も車検もすべて済ませることができるため、外注にかける必要もなく、すべての商品化が完了します。
この、中間マージンをかけることなく買取車両を販売するスタイルこそが、ビックモーター買取査定における最大の利点となります。
2014年度に楽天リサーチにおいて、「中古車買取価格顧客満足度第1位」に立ったのも、これが大きな理由です。
ただし、後で詳しく触れますがこの評価も、あくまで「売れる車であるなら」ということを少し頭に中に残しておいてください。
ビッグモーター査定のプラス要素その2・・・諸費用で儲けるスタイル
もう1つ、ビッグモーターがその査定額が高いとされている理由に、この企業の利益追求スタイルがあります。
前項で述べたことを整理すると、
中古車相場(オークション落札相場or販売相場)-(車体で得るべき利益+中間マージン+外注費用+人件費など店舗運営費)
が、買取査定額となります。
そして、企業として最も大きく追及すべき「利益」に対する考え方が、このビックモーターは少し他社と異なります。
ビッグモーターはその中古車在庫数たるや3万台、ここまで何度も述べてきたように、それらを業界で一番販売している企業ですので、薄利多売をすることが可能になっています。
つまり、他の業者よりも車体に対する利益を乗せる幅が少なくてすむということ、結果、その買取査定がアップします。
しかし、それと同時にこのビックモーターの販売について気になる点があります。
皆さんも中古車を購入した時、本体価格に追加される「諸費用」について不信感を持ったこともあるのではないでしょうか。
この諸費用というのが、どうも一般ユーザーには伝わりにくく、中古車業界全体を包むグレーな点になってしまっています。
はっきりと言えば、諸費用の中には当然支払わなければならない部分と、実は、業者の利益になっている部分とがあるのですが、
- 自動車税
- 自賠責保険料
- 自動車重量税
- 消費税
などといった、車を入手するには払わなければならない減らせない費用のほかに、
- 下回り点検費用
- 登録代行料
- 納車前整備費用
- 納車費用
- 下取り手数料
などといったものがあり、特に、下取り手数料なんて、筆者から言わせれば全く持って意味不明な項目ですが、これらは業者にとっては大きな収入源です。
ビッグモーターの場合、この利益部分の比率が他社より多いのが特徴で、購入時高めのその諸費用に加え車体価格に、
「安心BIG補償」
などといった、追加補償パック料やコーティング費用などを自動的に見積もりに追加してきます。
なぜこういった方法を取るかと言えば、一般ユーザーが中古車を探す情報誌や中古車ネットでは、本体価格でその在庫が分類され検索できるシステムになっているため、集客するには本体価格を低く設定する必要があるからです。
販売台数とそれに伴う膨大な在庫を有するビッグモーターは、集客が店舗の健全運営の最重要課題であるため、他社よりも本体価格を低くする必要性が高くなります。
つまり、総合すると、ビックモーターは利益を「車体買取額と車体販売額の差」から得るのではなく、購入者から多くの諸費用を取って利益を増やすスタイルになっているのです。
そのため、ビッグモーターで中古車を購入する時は、安い本体価格に飛びついてしまうのではなく、その諸費用をもう一度しっかりチェックする必要はあります。
一方、買取に出すときは、車体で儲けをそれほど出そうとしていないこの利益追求スタイルは買取査定を引き上げ、有利な方向に出てくる可能性が高いと言えます。
ビッグモーター査定のプラス要素その3・・・売却益以外の追加利益が多い
ビッグモーターは、その販売台数が多いことによって、当たり前に付加できる利益が抜群に多いことが予想されます。
それが、「ローンバック」と「自動車保険代理店手数料」の2つです。
自動車を購入するとき、多くの方がマイカーローンなどを利用しますが、このマイカーローンを提供しているのは、
信販系・・・金利は高めだが審査が比較的容易で早い、所有権もつけられないケースが多い。
などがあります。
中古車業者の場合、銀行系のカーローンを進めることはまずなく、基本的には信販系のカーローンを進めてきます。
ここに「ローンバック」という大きな利益が隠れています。
実は、信販会社と中古車販売店はその使用するローンの金利について、その利用件数に応じて「仕切り金利」というものを取り決めています。
実際に利用する金利と仕切り金利との差額分がすべて「販売店の取り分」として支払われる仕組みになっています。
ビッグモーターもその例にもれず、
- オリエントコーポレーション
- セディナ
といった大手信販会社と提携、それどころかこの2社は、ビックモーターの持ち株会社に名を連ねています。
そして、ビッグモーターは関係性の深さと利用件数の多さで仕切り金利について他社よりかなり優遇されていて、その率は風の噂では3,9%ほどともいわれています。
中古車店のローン利用では平均的に7~9%ほどの金利が採用されていますが、仮に、7,9%の金利をビッグモーターが採用しているとすると仕切りを引いたローンバック率は4%ということになります。
総額200万円の車を購入し5年60回均等支払いをしたとすると、実にこのローンバックは20万円を超え、それがそっくり販売店に利益として入ってきます。
昔々、「現金一括だからもう少し値下げして!」なんて言ってましたがとんでもない、ローンを組んでもらった方が、中古車店にとってはありがたいのです。
また、併せてビッグモーターでは、自動車保険の代理店業(損保ジャパン日本興亜)も行っていますが、この加入のあっせんによる手数料収入もばかになりません。
ビッグモーターグループの2016年度販売実績は驚異の7万3,000台です。
そのすべてがローンを組むわけでも、自動車保険に言われるがまま加入するわけではないでしょうが、ローンバックと自動車保険代理手数料を足した利益総額たるや推して知るべしです。
そして、他社を上回る高い査定額を示せる強さは、こういった利益による経営の安定もその背景にあります。
ビッグモーターの査定額の高さを実感した体験談

他社では査定ゼロだったのだそう

ある知人が乗っていた車を手放すと、いろいろな中古車屋を巡ったものの査定額が付かなかったため、「廃車にするしかないか見てほしい」との電話が入ったので、後日自宅まで来てもらいました。
見ると、車は13年落ちの白いミラの貨物、大きな傷はなかったものの年式なりのダメージがあり、車検切れも間近です。
これじゃやっぱり「査定ゼロ」もやむなしと一見した時は思いましたが、びっくりしたのがその走行距離!なんと3万kmをちょっと超えたあたりの低走行だったのです。
低走行車だから高い買取査定が付く訳ではありません
13年選手とは言え走行距離3万kmは魅力で、「それなら買取査定もある程度付くんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、プロにならまず眉唾で見られるので、なかなか買取査定が付きにくい。
なぜなら、走行距離が年式の割にあまりにも少なすぎる、年割で2,300km程度しか走行していないこの車は、
電気系統の不具合
などが発生している、もしくは将来的に発生しやすい、「休眠車両」の可能性を払しょくできないからです。
実際に車体を細かく見てみると、確かに長く走っていないことによるダメージは、それほど見受けられませんでした。
ここまで少ないのはなぜかと聞くと、なんでも当人のおじいさまが日頃の足代わりに長く乗ってらしたのを引き継いだのだそうで、なるほどそれならばこの状態も頷けました。
しかし、その話をうのみにする査定士はまずいない、年式が古いのに少なすぎる走行についてそれを見た瞬間に休眠期間が長いいわくつきの車両との評価をするケースが多い。
この場合、プロしか参加せずその落札ではネット参加での画面上でしか現車を見れないことも多いオークションでは、買い手がまず見つからないのです。
直販であるならば買い手が素人なのでその少ない走行距離についてデメリットがわかろうはずもなく、購入を視野に入れる方もいますが、それでも車体価格が10万円程度でないと話にならない。
そこから、確保すべき利益と商品化する経費を引いてしまえば、買取査定額は当然ゼロに近づいてきます。
そこで思いついたのが、直販の強いビッグモーターの存在です。
まだ査定には持ち込んでいないというので、さっそく予約をさせて向かうことを薦めました。
後日、喜んで電話をしてきたその査定結果は買取価格8万円、正直言っても4~5万円と踏んでいたのでちょっとびっくりしました。

ビックモーターにも弱点が・・・

ですが、この業界の成長株にもその特徴による弱点も存在しますので、最後に少し触れておこうと思います。
「売れる車」への査定評価が高い
ビッグモーターの買取は、あくまで店頭販売する商品を仕入れているだけですので、店頭で売れにくい車種の買取査定はグンと安くなります。
- 外国車
- 高級車
- スポーツカー
- 改造車
などがそれにあたりますが、元々ユーザーが限られる外国車や一部高級車、スポーツカーはその買取を渋り、安い査定価格を提示してくる可能性があります。
「高い車=売れる車」ではないのがみそ、やはり今の中古車市場の中心にいる、
- コンパクトカー
- エコカー
- 軽ミニバン・ハイトールワゴン
などいった車種あたりの査定評価が高くなってきます。
また、改造車や奇抜なペインティングを施した車体も同様で、純正に戻さないと自慢の販売ブースに並べられないこれらにはかなり渋い買取査定をしてきます。

修復歴のある車体は買わない?
何度も言っていますが、その販売に力を入れているビッグモーターでは修復歴(事故歴)のある車体を販売していない旨を公式にアナウンスしています。
買取した車体を直販するわけですから、修復歴のある車体は「売れない車」となるため、基本的にその買取査定は「ゼロ」です。
ただし、事故で傷がついていることと修復歴は異なり、車体の骨格までダメージが達した修理した車体のみを、実は修復歴(事故歴)車と言います。
誤解のおきないように、ビッグモーターではへこんだ車や傷のある車体を「買わない・売らない」という訳ではないことを付け加えておきます。
ビッグモーター利用者の口コミ紹介

良い口コミ
- 30代男性「どうしてもこの車を買取りたい、という理由を明確に話してくれその情熱は感じた。
即決ではなくて、他社でも査定したいと話してもイヤな顔をせず、結局ここが一番高い査定額を出してくれた。」 - 40代女性「第一は高かった査定金額で決めましたが、手続き等の説明が丁寧な点でも気に入りました。」
- 20代男性「他で査定つかずの車を最後にビッグモーターに持ち込んで良かった、数万円だったけど次の車の頭金にしたいと思います。」
など。
悪い口コミ
- 40代男性「愛想はいいが、査定時間が長い。査定後に他の車買取業者に査定してもらいたかったが即決金額を粘られ仕方なく契約、正直強引だと思う。」
- 20代女性「グイグイ来る感じ、押しつけがましく「ほら高いでしょ?」みたいな上から目線、高圧的な態度だったのですぐ店を出ました。」
など。
口コミの総評
総じてその買取査定額が高かったという口コミや評判が多いのがビッグモーターで、筆者も体験談を紹介したように、「売れる」と判断された時は古い車体でもなかなかの査定額を出してくるのは紛れもない事実です。
ただし、良く評価されると熱心といわれるその接客態度は、人によっては強引と解釈され評判が悪いケースもあるようです。
まとめ
今回、詳しく紹介したビッグモーターは、高額査定でその買取台数を増やし、それを抜群の販売力が下支え。
もしかしたら数年後には、買取台数でも業界のトップに立っているかもしれない企業です。
ただし、自社では売れないと判断した時の見切りが異常に早いのと、査定額交渉について非常に頑なところがあります。

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