通勤にレジャーに、その用途は違っても多くの方が自動車を利用し、数えきれないほど縦横無尽に街中を走っています。
それに伴ってどうしても起きてしまうのが交通事故、そんな万が一に備えるために加入するのが自動車保険です。
そこで今回は、任意保険料がどのような経緯で決まっていくのか解説します。
さらに、その維持が安上がりで、ニーズも増えてきている軽自動車の保険料は、ほかの車種とどう違うのかについても最後に説明したいと思います。
任意保険料はなぜそんなに変わるのか?
強制保険である自賠責保険の保険料は、保険会社が変わっても同じ地域で同じ車種であれば基本的に変わりません。
これは、自賠責保険が加入者ごとにかけられているものではなく、車体にかけられているものであることがその理由です。
ただし、任意保険は加入者の条件が違ったり保険・損保会社が変われば、目まぐるしくその保険料が変化します。
それはなぜなのでしょう。
ここでは、その理由をまず1つ1つ整理していきたいと思います。
なお、広義の「任意保険」とは生命保険や学資保険などなど、自分の意志で加入できるすべての保険商品のことを指します
今記事においては、自賠責保険を除く自動車保険のことを任意保険と表現・説明していきます。
任意保険は金融商品である
加入者によって、基本的にその保険料が変わらない自賠責保険は、その管理・運営・保険料決定を指揮しているのが金融庁。
確かに保険・損保会社が提供してはいますが、その立ち位置は保険料と保険支払いのバランスが50:50であればいい、つまり利益を上げる必要のない保険です。
つまり、ただ単に支払う可能性のある保険金を確保してさえおけばいいわけで、その支払われる保険金額や補償内容も各社共通なため、保険料に差が出ないという訳です。
一方、各保険会社が様々な商品を開発・発売し、積極的に自社商品への加入を勧誘する任意保険は、その保険料収入をうまく運用、保険金の支払いよりも大きな利益を得る必要のある金融商品です。
言ってしまえば、
- 株式証券
- 定期預金
- 国債・為替
などと、経済上では同じ枠組みになるため自賠責保険と異なり、営利を追求する必要が出てきます。
皆さんも記憶されている方がいるかもしれませんが、かつてのバブル景気の時、株価は急上昇、定期預金の利率も2ケタの10%越えもザラでした。
これは金融商品として、その運用で大きな利益が出ていたことに対するユーザー還元、うらやましい話ですが、現在の景気状態ではそんな大きな還元は無理な話です。
任意保険料も大きく景気で左右されるの?
ここまで説明してきて、
「景気がいい時と悪い時で任意保険料に差を感じないけど?」
という、至極当然な疑問の声を発する方もおられるでしょう。
その通り!同じ金融商品とはいえ、任意保険の保険料は、株価や定期預金の利率などのようにそれほど大きく景気で変化をしていません。
それは任意保険の保険料が、
- 純保険料・・・細かい計算方式にのっとってはじき出される支払保険料原資。
- 付加保険料・・・各保険会社運営状況に沿って、利益や経費などを計算、上乗せした保険料。
といった、景気とあまり関係しない要素も加味、合計した金額分が加入者に請求されることとなるからです。
純保険料の決定方法
任意保険料において、大きなウェイトを占める純保険料は、
- 国内の総保有自動車台数
- 事故発生率
- 死亡者総数・けがの程度
- 交通事情などの地域性
- 運転者の年代分布
- 車両の安全装備の進化
などといった、現在・過去に渡る膨大なデータをもとに、「損害保険料率算出機構」という非営利団体が算出される、「参考純率」をもとに決定されます。
この参考純率は金融庁長官に提出され認可されることとなりますが、これが適用されるのは任意保険のほかに、
地震保険
火災保険
などといった、ひとくくりに損害保険と呼ばれる保険商品が対象です。
これらはすべて、「将来起きるかもしれない事故や災害への保険」であるため、それらが発生せず当然保険金の支払いは無し、契約期間が無事に終了するケースも多くなります。
損害保険料率算出機構の存在意義
なぜこのような機関が設置されているのか?
それは同じ保険商品ながらこの機関に頼らない生命保険においていえば、その最終地点が加入者の死亡時の保険金支払いと定まっています。
さらに、毎月支払う保険料の額によって変わりますが、「死亡時・入院時○○万円」といった具合に、その最高支払金額も決まっているはずです。
併せて、学資保険や貯蓄型生命保険も、入学や卒業、設定した満期という一定の保険金支払い地点とその金額がはっきりしているためその保険料率決定を各保険会社も独自にやりやすい。
一方、支払うか支払わなくてもいいのかすらわからない、加えて任意保険の場合、対人・対物などといった事故相手への補償については、その金額が青天井の「無制限」が存在します。
そんな損害保険の支払いリスクを、いち損保・保険会社のデータとノウハウだけではじき出すのは、決して容易な作業ではありません。
そのため各社はこの機関に加盟し、それぞれの蓄えたデータを持ち寄って、その料率を共有しているのです。
「参考」のふた文字の意味
ただし、前項で紹介した損害保険料率算出機構の立ち位置は、1998年7月の法律改正によって一変します。
当時、ニュースなどで騒がれていた金融ビックバン、いわゆる規制緩和の波は、金融商品である任意保険業界にもやってきます。
それまで、この機関の算出した料率を各社が法律上「必ず」使用するようになっていたものが、以降その義務が撤廃されることになり、保険料率に参考という冠が付くことに。
これによって、各損保・保険会社は独自の判断で保険料を決められるようになり、それに伴って顧客獲得合戦と価格競争が勃発します。
ただし、それもあくまで上記で触れた付加保険料の範囲での話で、純保険料を大きく参考料率から下げてしまうと肝心の保険金支払いに不都合が出て、保険商品自体が崩壊してしまいます。
そうなってしまうと、会社自体の信用が大きく失墜、存続が困難になってしまうため、各社とも純保険料については参考料率を基準に「右にならえ」の状況を保っています。
基準は同じ、ではなぜ任意保険料が変わる?
前項の最後でお伝えしたとおり、純保険料については同車種で全く同じ加盟者条件であれば、金融庁の管理のもと大きく会社によって変化することはありませんが、問題は付加保険料の方にあります。
各社が揃って参考料率に従っていると述べましたが、ここで触れなければならないのが任意保険料が登録する車種、加入者の年齢などで、この付加保険料分に違いが出てきてしまっていることです。
リスク細分化による対処
任意保険ごとに大きくその保険料が変化する最大の理由は、規制緩和に伴い加入者の勧誘合戦が活発化したことが起因となっています。
各保険会社が自らの解釈で、利益確保分に相当する付加保険料について、他社を出し抜くような個性を出していかなければうまく顧客を獲得できなくなったからです。
いじることのできない、絶対的基準である参考料率はそのままに、
- 年齢制限と運転者範囲
- 契約車両の年間走行距離と使用用途
- ゴールド免許の有無
などなど、保険料発生のリスクについて、各社が独自の基準によって細かく設定した割引率の差が、統一されているはずの保険料を大きく変えているのです。
そして、年齢制限を細かく設定したり、40代、50代といった事故リスクの低いといわれる世代の割引を充実させたりすることで多くの顧客を獲得しようとする損保会社が現れてきます。
また、ある会社は、年間走行距離の設定区分を細分化し、さらに走らなかった分次期契約の保険料から割引するなど、強く個性を打ち出して人気を博しています。
代理店型とダイレクト型の保険料はなぜ違う?
付加保険料は、前述したリスクの細分化が進んだことによることのほかに、各保険会社の経費などが大きく加味されます。
通販型とも呼ばれるダイレクト型自動車保険の場合、その見積から契約まですべてネットや電話で可能となっているため、
- 店舗建設費
- 水道光熱費ら店舗維持コスト
- 人件費
などが、圧倒的に代理店型より抑えられます。
また、代理店型自動車保険では、その名前通り実際の店舗運営と顧客勧誘は、保険専門の代理店はもちろん、ディーラーや中古車販売店、さらに最近ではガソリンスタンドなどが「代理」で行っています。
そして、大元の損保・保険各社はその勧誘数に応じて一定の代理店手数料を支払うのですが、その手数料は通常保険料に上乗せされ、加入者が保険料として負担しています。
一方、ダイレクト型はユーザーと保険・損保会社が直接取引をするため、この手数料を上乗せする必要がない。
以上の理由から、その安定度や事故対応など賛否両論はあるものの、保険料という面だけでいうと、代理店型よりもダイレクト型の方が、安めに設定されていることがほとんどです。
参考料率と保険料の関係!どうしたら保険選びに役立つのか
リスクの細分化による割引率の差や、代理店型とダイレクト型の業態の違いで保険料が変わってくることをお伝えしましたが、参考料率を知ることで契約車両をチョイス、保険料を節約することは不可能なのでしょうか?
参考料率って一般人でもわかるの?
結論から言えば、参考料率については一般向けに一切公表されていませんので、その詳細をすべて知ることは不可能です。
自動車社会全般に関わる総合的な要素を綿密な計算方式ではじき出す参考料率を知ったとしても、それを素人がどうこう判断することは難しいでしょうし、変えることのできないものですので知ってもあまり意味がありません。
ただし、車種・車体ごとにその料率をランク分けした、「車両料率クラス」というものについて、今回数点調べることができました。
事故を起こしやすい車種が高い料率になる!
参考料率のうち、車種によって変わるのがここで触れる車両料率クラスで、極端な言い方をすると保険金を支払う機会と額が少ない車のクラスが高く、その料率について低く設定されることとなります。
その具体例をいくつか表にしていますので、まずはご覧ください。
例をいくつか表にしていますので、まずはご覧ください。
メーカー | 車種 | 型式 | 料率クラス | |||
車両 | 対人 | 対物 | 傷害 | |||
トヨタ | プリウス | ZVW50 | 5 | 4 | 4 | 4 |
ホンダ | フィット | GK3 | 3 | 4 | 4 | 4 |
日産 | ノート | E12 | 3 | 3 | 4 | 4 |
トヨタ | ヴォクシー | ZWR80G | 4 | 4 | 4 | 4 |
ホンダ | ステップワゴン スパーダ | RP4 | 6 | 4 | 4 | 4 |
マツダ | スイフト | ZD72S | 5 | 2 | 5 | 4 |
車両料率クラスは車両・対人・対物・傷害の4つの保険支払い要素に区分されていますが、1が最も料率が低く9が最も高く設定されます。
上表は、どれも新車での売れ行きも好調な人気車種で現在の自動車業界の傾向である安全性重視も反映されてるため、軒並みその車両料率ランクも高めです。
この車種だけでなく、その型式によっても異なる車両料率クラスは、
- 事故を起こしたor遭遇した件数が少ない・・・購入者層の年齢や性別、用途なども影響。
- 事故回避システムがついている・・・衝突回避アラートやブレーキアシストなど、先進の安全装備が装着されている車体。
- 盗難・イタズラなどの被害が少ない・・・イモビライザーなどがついている、高級車種よりリーズナブル車種の方が実費被害が少ないと判断される。
- 万が一事故を起こした場合でも車体、搭乗者への程度が軽い・・・大きな車体の車種、衝突安全ボディー車種などの評価が上がってくる。
などといった要素が複雑に絡み合って設定され、1と2はすべての支払い要素に、3と4は主に傷害と車両保険支払い金額に影響を与えるため、それぞれのクラス決定に反映されます。
車両料率と車両保険
対人と対物、更に傷害保険の面でいえば、よほど特殊な車種や外車を除いて国産の現行車種はどれも3~5の範囲に収まっていますが、車両保険だけは話が別です。
保険料率と車両保険との関わりは深く、下表のようにクラスごと保険料の倍率が設定されています。
料率ランク | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
倍率 | 1.0倍 | 1.2倍 | 1.4倍 | 1.6倍 | 1.9倍 | 2.4倍 | 3.0倍 | 3.6倍 | 4.0倍 |
最高クラスの1には、
- トヨタ RAV4
- スズキ ジムニー(1200cc)
など、足回りや車体が強靭なRV車よりの車種。
- マツダ デミオ
- トヨタ ヴィッツ
などといった、街中でよく見かけるコンパクトカーとして人気の車種は、型式によっても上下しますが、やはりランク3と4の範囲に入っています。
一方、三菱のランサーエボリューションや、レクサスの一部車種はクラス8、日本最高峰のスポーツカーホンダNSXや、高級セダンの代名詞であるトヨタセルシオなどといった車種は、最低クラスの9となっています。
仮に、基本となる車両保険料が30,000円とすると、クラス1の車種はそのままの金額、ランク4では48,000円、ランク9では何と12万円にまで達してしまいます。
しかも、ダイレクト型の自動車保険は安い保険料から近年シェアを伸ばしていますが、このクラス9の車種の車両保険への加入を断るケースが多い。
ですので、任意保険に車両保険をつけたいと考えている方は、ここで紹介した車種・型式ごとの保険料率ランクについても、強く意識しておく必要があります。
軽自動車は車両料率クラスが無い!
前の項で表にして示した車両料率クラス表や、その後挙げたいくつかの車種を見て、軽自動車が無いことに気づいた方もいるかもしれません。
実は、車両ごとに細かく設定されるはずの車両料率クラスは軽自動車にはなく、どの車種で契約しても、それだけで任意保険料並びに車両保険料が変化することはありません。(各保険・損保会社独自の基準での保険料差は発生する)
そして、一般的に、普通乗用車より軽自動車の方が、軒並み任意保険料を安く抑えることができるのです。
現在、軽自動車で最も売れているホンダのN-BOXとほぼ同等の新車価格で買える普通コンパクトカーのトヨタのパッソで、それぞれの車両保険付き任意保険料をある通販型自動車保険の公式HPで見積もり比較、表にしてみました。
車種名 | 型式 | 税金(新車購入時) | 年払い保険料 |
N-BOX | JF1 | 自動車税10,800円、重量税7,500円、取得税21,100円 | 70,240円 |
パッソ | M700A | 自動車税29,500円、重量税15,000円、取得税31,300円 | 74,240円 |
※加入者は新規6等級、補償内容や特約などは全く同じ条件で試算、税金は2017年4月現在のもの。
結果、その保険料の差額はちょうど4,000円、軽自動車のN-BOXが安く見積もりされました。
「なんだ、たったそれだけ?」というなかれ!
実はこれ、
- 本人限定
- 30歳以上補償
を適用した時のお話。
これを、軽自動車やコンパクトカーを選ぶ方に多いケースである、
- 家族で乗りあうことを前提に同居の親族まで運転者範囲を広げ、
- 年齢制限も未成年の子供が乗れるように全年齢にすると、
その差が23,000円ほどに膨らんできます。
しかも、ついでに表で示した新車購入時に支払う税金は、N-BOXの方が36,400円も安く上がる計算になります。
今回は大きさや新車購入金額の近いパッソとの比較なのでこの程度に収まっていますが、新車価格でその保険料が変わる車両保険付きの任意保険に加入する場合、ワンボックスや高級セダンとなるとこの差がもっと大きく開いてきます。
確かに、排気量の面でパワーや馬力は普通車の方が上、しかしパッソとならN-BOXはじめ、今の軽自動車の走りはそこまで遜色はありません。
さらに、車内空間の広さでいえば、
- ダイハツ タント
- ダイハツ ウェイク
- スズキ スペーシア
などといった、今市場を席捲中の軽ハイトールワゴンの方が、コンパクトな普通乗用車より、優位にたっているかもしれません。
用途で選ぶ事の多いワンボックスやRV、高級セダン車種は仕方ないにしても、こうなってくるとやはり、コスパで選ぶならば軽自動車の方が断然優位と言えます。
軽自動車の任意保険には安くする裏技も!
前項で、若い子供が運転する可能性を考えて全年齢設定にするとその保険料の差が広がることに触れましたが、この点について、1つライフハック的な任意保険の節約術があるので最後に紹介。
実は軽自動車には4ナンバー、つまり、軽貨物車という区分が存在しますが、この車種を自家用使用で一般の任意保険に加入して全年齢設定をするより、事業用の任意保険に加入して自動的に全年齢設定をされた時の保険料の方が幾分安くなるケースがあります。
また、軽貨物の方が毎年課税される自動車税も数千円程度軽乗用車より安く、中古の場合その購入費もリーズナブルなものが多い。
年齢条件を付けられる場合やセカンドカー割引を適用できる場合は別ですが、18・19・20歳のお子様がいる場合、その乗る車を軽貨物にしてその任意保険代と税金を節約するという方法を取ることができます。
まとめ
車両料率が存在しないために任意保険代も安上がりな軽自動車のコスパの良さは群を抜いていて、軽自動車は現在普通車種を脅かす売れ行きを続けています。
ただ、「高級セダンに憧れがある」、「大家族なのでワンボックスがいい」などといった具合に乗りたい車種がはっきりとしているのであれば、決まっている車両料率をどうこう言っても始まりません。
ですが、車は足代わり移動出来ればなんでもOKという方は、車両料率をちょっと意識した車選びをすると意外に大きな任意保険料の節約につながります。
実例をお見せしたように、通販型の自動車保険各社のHPでは数分かければ、その加入条件に見合った保険料の見積もりが得られます。
車選びに悩んだ際は、車種を変えて入力しその保険料の差を事前に調べておけば維持費の組み立てがしやすくなり、自分にピッタリの車選びの良い材料になります。
また、似かよった大きさと価格帯にも関わらず、他よりも保険料が安い車種は安全面での評価が高いということの裏返しでもあります。
その事故率が低く安全装備が揃っているという証明でもあるので、是非時間があれば活用してみてください。
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