少々オーバーな表現かもしれませんが、今世紀中にまさかこんなことが起こるとは夢にも思いませんでした。
あの世界最高級車として名高い名門ロールスロイスから本当にSUVが登場します。
2018年5月10日木曜日の正午(英国時間、日本時間午後8時)、ついにロールスロイスモーターカーズから、全世界同時ライブストリーミング公開という今流行りの手法により、全くのブランニューモデル「カリナン」の全貌が明かされました。
伝統的シューティングブレイクや悪路走破性を少々高めたアウトバックスタイルと思いたかったのですが、公開されたお姿は見まごう事なきSUVに他なりません。
一体どのような解釈や意義があってロールスロイスがカリナンを世に送り出すに至ったのか?
公開された最新情報を元に詳しく見ていきたいと思います。
カリナンの名前の由来
これまで歴代のロールスロイスにはすべて、ファントム(亡霊)やゴースト(幽霊)と言ったいわゆるお化けの名前が与えられてきました(一部の例外的派生モデルを除いて)。
これは、音もなく現れるというロールスロイスの静粛性に由来するものです。
そして、今回のカリナンだけがこれまでの伝統的命名から外されることとなりました。
「カリナン」は、1905年に南アフリカのカリナン鉱山で発見された史上最大のダイヤモンド原石(The Cullinan)に由来します(現在では史上二番目)。
3106カラット(621.2g)あり、鉱山の所有者サー・トーマス・カリナンの名前から来ています。
サー・トーマスもまさか後世で自分の名前がロールスロイスに採用されるとは夢にも思わなかったことでしょう。
このダイヤの原石は、南アフリカのトランスヴァール政府に売却され、そこからイギリス国王エドワード7世へ66歳の誕生日の贈り物として贈呈されています。
南アフリカから英国までの道のりは険しく、大変困難だったことは想像に難しくありません。
カリナンの名前には、どんな圧力を受けても怯まぬ耐久性や絶対の堅実性、希少性と尊さ、そして、常に完璧な姿で現れ、他の全てを圧倒するといった精神が込められています。
この命名一つをとってみても、同社にとってカリナンがどれほど異例で、どれほどチャレンジングで、どれほど妥協なきモデルかが伺い知れます。
カリナンのスペック
ボディサイズ
- 全長×全幅×全高:5,341×2,164×1,835mm
- ホイールベース:3,295mm
パワートレイン
- エンジン:6.75リッターV型12気筒ツインターボ
- 最高出力:571ps/5,000rpm
- 最大トルク:86.7kgm/1,600rpm
- トランスミッション:8速AT
- 駆動方式:4WD
カリナンの大柄なボディは、もちろん先にデビューしたファントム譲りで、同じオールアルミ製スペースフレームの「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」を採用しており、ファントム比で全長を421mm短縮、逆に全幅を146mm拡大しています。
このサイズ変更により大幅に縦横比がスクエアに近づき、スポーティーなドライバビリティを得ることに成功していると想像できます。
(一般的に縦横比がスクエアに近いほど、コーナリングが得意になるが、それは直進安定性とトレードオフの関係だと言われています。)
いかにロールスロイスと言えども、SUVのSの部分は無視しがたく、また、近年同社のユーザーに一定の割合を占めるヤングエグゼクティブ層の要求を重視した結果の現れでもあります。
カリナンの内外装デザイン
内外装のデザインに特に目新しさはなく、ファントムほぼそのままのロールスロイスの流儀に沿ったものとなっています。
ただしこれは悪い意味ではなく、いい意味で伝統的であり、完成されたものはいつの時代でも普遍だということの象徴ですらあるように感じられます。
唯一初採用となるのが、折り畳み式の後部座席で、今更折り畳み式ごときで驚くのもおかしな気がしますが、ロールスロイスともなれば話は別です。
リアシートは、他の4ドアモデル同様に3座のラウンジ式と2座のセパレート式からチョイスが可能です。
もちろん、セパレート式には、専用のウィスキーグラスとデカンタ、シャンパンフルート、クーラーボックスキャビネットが付いてきます。
テールゲートは、上下二分割での開閉が可能で非常に実用的。
このあたりにBMW譲りの工夫が見え隠れします。
カリナンの装備
後部ドアは当然のことながら後ろヒンジの伝統的コーチドアを採用。
ラゲッジスペースと後席の間にガラス製パーティションが備わり、乗員の空間をさらに快適に保つことが可能となっています。
高い車高に対して品よく乗り込むために、乗り降りの際には自動的に車高が40mm上下します。
カリナンは最高級となる本格派SUV、もちろんハイライトはオールラウンドでの走行性能の高さにあります。
トランスミッションが常にGPSと連携し、行先の道路状況に応じた最適な変速を行います。
自動レベリング式エアサスペンションが採用され、常に路面状況をモニタリング、それを元に毎秒数百万回の演算により最高の乗り心地を約束します。
オフロードでは、トラクション状況をモニタリングし、各車輪に常に適切なトルクを供給できるようにコントロールしています。
これらの統合制御機能は「エブリウェア(どこへでも)」と呼ばれ、ボタン一つで使用可能です。
他にも「アクティブクルーズコントロール」や「ナイトビジョン」、「パノラマビュー」、「衝突警告」、「クロストラフィックアラート」、「レーン逸脱警告」、「車線変更警告」などの安全装備が多数採用されていますが、これらは他メーカーがずっと以前から採用していたものと同レベルのため改めて説明する必要はなさそうです。
カリナンの価格
カリナンの価格は21万ポンドと発表され、これは日本円に換算すると約3100万円になります。
これに消費税や諸費用、何よりオプションを付加していくことで乗り出し価格は4000万円程度になると予測できます。
個人的には、例えばベントレー ミュルザンヌが3400万円ベンテイガが2700万円と、その差700万円なのに対して、ファントムが5000万円なことを考慮すると相当なバーゲンプライスだとの印象です。
相当に思い切った、新たな若年富裕層を取り込もうとする勢いの表れだと捉えることができます。
差額僅か400万円で、ロールスロイスとベントレーを迷う人がいるとは到底思えませんから。
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