
2017年10月25日、第45回東京モーターショー2017が開幕し、ダイムラー社はメルセデス、同マイバッハ・AMG、スマートブランドなどを掲げ幅広いラインナップを披露しました。
今回のモーターショー、テーマは“BEYOND THE MOTOR”
メルセデスの“BEYOND”=訪れる未来のビジョンには、例年と比べ更に広げられたブースからも期待せずにはいられません。
ダイムラー社、メルセデスブランドの2017年の世界販売台数が170万台を突破。前年比約12%の増加で、日本においても2013年から4年連続の過去最高を記録しています。これは、もちろんプレミアムブランドとしての販売台数No.1を示す数字であり、同社にとっても日本市場の存在は非常に重要なものとなっています。
それを裏付けるように、例えば今年に入り世界初となるAMG専売店“AMG東京世田谷”を、スマート専売店の“smart center 京都”を立て続けにオープンさせ、この2つのブランドの日本市場への注力が伺えます。
CASE
“CASE”とは、かねてよりダイムラー社が掲げているコンセプトで、Connect (接続性)、Autonomous driving (自動運転)、Shared & Services (シェア&サービス)、Electric (電気自動車)それぞれの頭文字を取ったものです。
クルマの情報の伝達やネットワーク化、膨大なマップデータと人工知能を活用した自動運転、これからますます増えていくであろうカーシェアリング、そしてバッテリーや燃料電池技術と共にプラットフォームの発展が進む電動化技術を表しています。
これらの要素は全て、インターネットや情報端末の発達、実用的なEVの開発など自動車の新しい価値を見出していく上でこの先必ず基盤となる技術です。
今回の東京モーターショーではこれらに基づきコンセプトカーが紹介されました。
GLC F-CELL
はじめに“GLC F-CELL”のプリプロダクションモデルの紹介です。
一見ふつうのSUVに見えますが、実は世界初の燃料電池とリチウムイオンバッテリーを併載したプラグインハイブリッドとなっており、内燃機関を使用しない100%電気駆動の自動車です。
燃料電池は従来のリチウムイオンバッテリーと比較してエネルギー密度が高く(ゆえにコンパクト)、高出力化が容易なうえ航続距離も大幅に伸ばせるのでゼロエミッション車としては正に理想のパワーソースです。燃料電池/高圧水素タンクを如何にコンパクトに軽く搭載させるかが課題の一つでした。
GLC F-CELLは新開発の大幅に小型化した燃料電池をパッケージしており、30%小型化されたユニットは従来のエンジンルームに綺麗に収まっています。特筆すべきは燃料電池の触媒として使用されるプラチナの使用量が従来比90%も削減されている点で、今までの燃料電池車がよりコストを抑えてきているということです。このコンパクトなパワーソースから得られる出力は200PS、トルク350Nmと十分に実用的と言えます。
水素タンク容量が4.4kgと言われてもあまり直感的には想像できない数字ですが車内を見渡す限り邪魔にはならないサイズに収まっているという理解で十分です。補給時間もわずか3分と、ガソリン/ディーゼル車と比較して、もどかしさを感じることもありません。ドライバー目線の実用性を考える上で、燃料補給時間の短さは大きなアドバンテージになります。
航続距離は、満タンの水素で437km。それに充電されたバッテリーによってプラス49km。合計して東京―鈴鹿間に相当する486kmを実現しています。ポイントは、水素ステーションのない場所でも既に相当数普及している充電設備が利用できるということと、家庭でのちょっとした充電ができる事です。
燃料電池の話題になる度に挙げられる事ですが、水素ステーションは今までに無い新しい設備なので1から建設しなければいけない為に普及には大きな課題があります。ダイムラーは水素ステーションのインフラ整備の計画もまとめており、2018年末までにドイツ国内で100か所、2023年までには最大400か所まで拡大させる予定に加え、日本でのインフラ拡大も推進させる計画があるとのことです。
インフラの普及と共に、燃料電池ユニットの価格も現実的になるよう推進される事を期待します。
Concept EQA
次に100%電気自動車の“Concept EQA”です。
“メルセデスは2022年までに100%電気自動車を10モデル以上市場に投入します”と言っていましたが、その実現の意志がこのEQAの完成度に現れています。演出の効果もあいまって未来感が強調されていますが、細かく観察するとリアリティのあるエクステリアです。EVと聞いてやはり気になるのが航続可能距離ですが、約400kmとやはり十分に現実的な数値です。2基の電気モーターを搭載しシステム出力200 kW以上、最大トルク500Nm以上の十分なパワーを発揮し、前後のトルク配分を路面状況に応じて振り分ける四輪駆動まで搭載しています。
車体の出来栄えもさることながら、やはり充電エリアの拡大も積極的に取り組んでいる模様です。“EQ”はエレクトリック・インテリジェンスの略との事で、自動車本体の他に充電設備提供まで含んだ製品とサービスがトータルパッケージを対象としたブランドです。同社が展開するサービスコンテンツ“Mercedes me”による充電料金決済など、これから増える新たな需要に応えるべく各種インフラの準備が急ピッチでなされています。メルセデスは既に本国では大規模な充電インフラを提供しており、“電気自動車が市場に受け入れられるかは、包括的インフラ整備次第だ”と言いきっているので、日本での拡充も期待されるところです。
smart vision EQ fortwo
先にご紹介したプログレッシブなEV二台。そこから更に一歩、いや数歩踏みだしたのがコレです。
スマートブランドより“smart vision EQ fortwo”の発表です。
なんかすごいのが出た!というコンセプトモデルです。一見すると従来のスマートのイメージに則ったコンパクトカーですが、インテリアを見るとステアリングもペダルもないことに驚かされます。レベル5となる完全自動運転の実現です。このモデルは前編で紹介した“CASE”コンセプトの4つを小さなボディに全て詰め込んでいます。
日本国内でも急速な拡大を見せるカーシェア市場。“クルマを所有するほどでもない”あるいは“必要なときに必要な分だけクルマを使いたい”など、レンタカーより格段に自由度の高いシステムで需要が増え、全世界でのユーザー数は2025年までに3670万人に達するとの予測が出ています。まさに、自動車社会の多様化を象徴するかのような流れです。
ダイムラー社は2008年からカーシェアリング“car2go”を世界で順次拡大させており、1.4秒ごとに1台の割合で利用されているとのことです。大きな特徴が“乗り捨て可能”な事で、借りる場所や返却場所が決まっておらず、指定のエリア内で自由に乗り降りが可能となっています。そして、予約不要なうえスマートフォンなどの情報端末で最寄りのクルマを検索、使用後はその場で決済までの全てが完結します。

前述した通り、完全自動運転なので“ドライバーのいや、ユーザーの”運転技術に影響されないのは勿論、スマートフォンで呼び出せば無人でユーザーを迎えに行くことだってできてしまいます。タクシーのように空車を探す必要もありません。vision EQ同士も通信を行って、人工知能を活用してニーズを把握、効率良く移動が行われます。利用方法も至って簡単、目的地を設定すればそれだけで完了です。
クルマを利用するというより、移動資源を効率的に活用すると言った方が端的であり、究極の都市型モビリティであるとすら言えるでしょう。完全な電気自動車で、充電時期もクルマが自動的に判断し非接触充を自らの意志で行います。
呼び出したvision EQを自分の好みに合わせて外装デザインを瞬時にカスタマイズすることまで可能ということです。ボディそのものがディスプレイになっており、ちょっとした痛車にもすぐ変身できます。車外の、例えば歩行者に向けて“左に曲がります。気をつけてね。”などのメッセージを発する機能まで備わっています。
車内にはディスプレイとシートがあるだけで、ユーザーは移動空間を楽しむことに徹することができます。少し残念なことにリリース目標は2030年と、まだ先のお話しとなります。
“car2go”のような完全乗り捨て型カーシェアに関しては、現在の日本の法規制では車庫証明うんぬん等、難しい点も多いかと思います。しかし、今回のコンセプトモデルで示された完全自動運転や人工知能の性能向上、相互通信技術などはこの先間違いなく自動車の基軸のひとつとなってくるでしょう。
AMGの行方
AMGブランドの売り上げが非常に好調である、“昨年の世界販売台数が10万台近くにのぼり、実に前年比44%の増加だ”とスピーチがありました。
44%増加とは、にわかには信じられないほどの圧倒的な数字で、会場からは思わず驚嘆の声が漏れたほどです。
立役者となったのは、もちろん2014年に登場したAMG GTシリーズでしょう。今年、設立50周年を迎えたAMGは記念となる特別仕様車「AMG GT C Edition 50」をリリース。そしてAMGとして最も野心的なモデルが、今年ついにワールドプレミアとなりました。“Mercedes-AMG Project ONE”です。
フォーミュラ1の技術を贅沢にフィードバックさせた究極のロードカーの誕生です。1.6リッターターボエンジンを搭載したハイブリッドモデルで最高出力1000馬力オーバー、最高速度350km/h以上の途方もないパフォーマンスを誇ります。方やゼロエミッションの車両を意欲的に開発する中で別ブランドでは限りなく高出力かつ走行性能に重点を置いたモデルを誕生させるダイムラー社に、“自動車を発明した偉大なメーカーとしての責任や常に先駆者として歩んで行くプライド”を感じずにはいられません。
Mercedes-Benz Online Store
市場での新しい取り組みの一つとして、今回、“Mercedes-Benz Online Store”を開始、その名の通りインターネットのオンライン上で車両の契約や決済まで完結することができる販売チャンネルで、販売店の選択、ローン審査や支払いなど一連のプロセスを行う事ができます。販売する側とユーザー側にこれまでに積み重ねられた信頼がないと到底実現不可能なシステムです。今のところ個人向けの車種は限られていますが、ライフスタイルの多様性が進む中、幅広いニーズに応えられるユニークな戦略と言えます。
最後に
“東京”モーターショーは正直なところ中国市場の発展に押されて、年々貧相になっていく一方です。出展を取りやめるメーカーも少なくありません。諸外国のモーターショーとは立ち位置が少し違うということもありますが、コストの掛け方が残念だったり、支離滅裂なコンセプトを掲げる集団も目に付くようになりました。
今回メルセデスベンツブースを訪問して、その展示されているモデルの方向性の幅広さに加えプレミアモデルやモータースポーツマシンまで合わせると21台の車両を広々と展示しており、グループとしての好調を大きく肌で感じました。東京モーターショー2017の輸入車メーカーブースの中でダントツで一番に華やかで勢いがあり、クルマ好きを楽しませてくれました。

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