
ランボルギーニを救った男として数々の傑作を世に送り出してきた偉大なるエンジニア、パオロ・スタンツァーニ氏が、2017年1月18日亡くなられました。享年80歳でした。
まずは、心からご冥福をお祈りしたいと思います。
なお、葬儀は、1月21日土曜日の11時からサンタアガタ・ボロネーゼの中心にある教区教会で行われました。残念ながら私は葬儀に参加することは叶いませんでしたが、その模様を象徴するような一枚の写真を参加した知人から入手しましたので掲載させていただきます。
展示されていた黒いランボルギーニ・ミウラの後ろ姿があまりにも美しすぎて、故人の功績の偉大さを改めて思い知らされ哀しみがこみ上げて来ます。

ご存知なかった方もこの記事をみて今日のランボルギーニの隆盛は天才エンジニアパオロの存在なくして語れないことを知っていただければ幸いです。
「スタンツァーニとランボルギーニの出会い」
スタンツァーニ氏は、ボローニャ大学で機械工学を専攻1963年に修了した。
修了と同時に当時まだそれほど知名度のなかったランボルギーニに入社。このときランボルギーニ社は設立わずか2年目で、今日の繁栄は誰も想像し得ない状況でした。
入社からわずか3年後の1966年には、エンジニアのジャン・パオロ・ ダラーラやデザイナーのマルチェロ・ガンディーニとともに伝説的名車“ミウラ”の開発に携わります。
転機が訪れるのは翌年67年でした。
それまでエンジニアの代表格だったダラーラ氏がランボルギーニを離れたため、その後任としてジェネラルマネージャー兼テクニカルディレクターに就任します。入社4年目若干31歳での大抜擢です。
その後、最も偉大な功績として称えられる仕事に着手することになります。
「スタンツァーニのカウンタック」
そうです。スタンツァーニ氏の代表作とも言えるカウンタックの開発です。
カウンタック最初のモデルLP500は、1971年にジュネーブモーターショーでアンヴェールされました。
エンジンをミッドに縦置きし、その前にトランスミッションを配置するという従来とは逆の斬新なレイアウトを採用し、走行安定性の向上やショートオーバーハング化を実現しました。
これらの奇抜ともいえる発想は全てスタンツァーニ氏のアイデアによるものだったと言われています。
いずれも氏がエンジニアリングの点で常に理想を追い求め、一切の妥協なく最高の仕事をした結果に他なりません。
「天才エンジニア」
カウンタックの前世代にあたるミウラが横置きミッドシップのV型12エンジンを導入して大成功を収めたにも関わらず、どうしてカウンタックでレイアウトを大幅に変更する必要があったのでしょうか?
それは、横置きミッドシップに重大な欠点があったからです。
リアよりに巨大なV型12気筒エンジンを配置することで、極端に後寄りの重量配分となり、それに起因する高速走行時の不安定になります。
また、横置きエンジンに接続されるトランスミッションは複雑化してしまいシフトフィールが悪くなるなど、全てはエンジンを横置きすることに起因する固有の欠点でした。
そこで、エンジンを縦置きにすることで一挙に問題を解決してしまおうと検討します。
ただし、それほど単純にはいきません。巨大なV型12気筒エンジンを縦置きにすると、理想的な重量配分は得られるものの、ホイールベースが長くなるために回頭性が低下してしまうのです。
スタンツァーニ氏はこの問題を見事に解決してみせます。
通常とは順序を逆転させ、エンジンの前方にギアボックスを配置することにより、ミウラよりさらに短い2,450 mmというホイールベースを確保することに成功しました。
また、このレイアウトはもう一つの課題まで解決してしまいます。
エンジンの前方、コクピット下にギアボックスを配置するためワイヤーを介さず直接ギアボックスにシフトレバーを取り付けることが可能となり、良好なシフトフィールを得ることに成功します。
変則的ではありますが、駆動力はエンジンから前方のギアボックスに伝達され、更にそこから折り返されたシャフトはオイルポンプを貫通し、後輪のデファレンシャルギアに伝達されます。
「スタンツァーニの残したもの」
スタンツァーニ氏の在籍中のランボルギーニからは、
- エスパーダ
- ハラマ
- ミウラS
- ミウラSV
- ウラッコ
- カウンタック
と数々のスーパーカーが登場します。
どの車もランボルギーニの歴史にとって欠かすことのできない一台です。
アウトモビリ・ランボルギーニ社は「スタンツァーニ氏のヴィジョンと創造性、そしてプロジェクトへの革新的なアプローチは、今なおランボルギーニのインスピレーションの源となっている」と哀悼のコメントを発表し、スタンツァーニ氏への敬意と親愛を表しました。
スタンツァーニ氏がいたからこそ今のランボルギーニがあり、芸術作品ともいえる最高の車達が私たちの目を耳を五感全てを楽しませてくれています。
今日へ続く礎を気付いてくれた氏に感謝せずにはいられません。

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