個人的な思いで申し訳ございませんが、この日が来るのを約半年待ちました。
2017年8月9日に現行型Sクラス(W222)の後期型が発表され、そこから遅れること8か月、2018年3月1日ついにS450グレード追加の発表会が開催されました。
一見単なる1グレード追加に思えますが、実はそうではありません。メルセデスの歴史上後世に残ると言っても差し支えないほどの内容です。
私が何にそれほど興奮しているのか、後ほど詳しく解説させていただきます。
当日の模様
まずは、お約束の当日の雰囲気からお伝えします。
場所は、芝公園にある“ザ・プリンス パークタワー東京”地下2階のボールルームです。
ホテルの周辺道路には至る所にメルセデスが目につき、車寄せもメルセデス一色です。
もちろん駐車場内もメルセデスを中心とした高級車~超高級車がズラリと並びます。
朝から1日中行われたのですが、私が到着した18時がピークだったようで人で溢れていました。
到着してまずは、スイーツとコーヒーを飲みながら概観を入念に観察していきます。
概観面での変化
外見上はW222後期型Sクラスそのものなのですが、1か所だけ変更されました。
これまでのオプションAMGパッケージからさらに、AMGプラスの選択が可能となり、専用ホイールが追加されました。(プラスの部分はホイールのみです。)
通常のAMG19インチに対して20インチとなるこのホイール、凹凸がデュオトーンと共にハッキリと強調されていてカッコいいです。
19インチもAMGスタイリングⅣと呼ばれる伝統的デザインで気に入っていたのですが、実物を見比べると圧倒的に20インチがカッコよかったです。
技術的ハイライト
いよいよここからがメインです。
自動車に関する技術でここまでの感動を覚えたのは、初めてかも知れません。
確かに私の個人的Sクラスへの思い入れも認めますが、それを抜きにしても本当に凄いです。
キーワードは、“20年ぶりに復活した直6エンジン”と“48V化電源”です。
この二つは間違いなく当面の自動車界のトレンドになるはずですので覚えておいてください。
直6エンジンの復活
それは端的に言いますと、本来はレシプロエンジンの中で振動面(二次慣性力振動と偶力振動が互いに打ち消しあう)で直6エンジンが優れており、エンジンフィールやシャーシ設計に大きな恩恵をもたらすからです。
それにも関わらず、クラッシャブルスペースやユニット共有化の問題から全てV6に置き換わっていったという歴史があります。
直6エンジンとは6本の筒を一直線に並べたレイアウトです。
対してV6は、3本ずつの2列に並べているため、全長が短いのが特徴です。
もちろん、空いたスペースを衝突時に衝撃を逃がすクラッシャブルゾーンに使うことができる、横置きにしてFF車(フロントエンジン、フロント駆動の車。大衆向けの車に多くコストが安いのが特徴。車軸の間にエンジンやミッションが入り全てそこで完結する。)に積むことまで可能です。
さすがに長い直6を、コンパクトさが命のFF車のボンネットに横置きにはできませんよね。
トヨタ式生産手法が広まり、どのメーカーも部品のほとんどを多車種間で共有するようになって久しいです。エンジンも例外ではありません。
そのため、本来は優れていることがわかっていながらも、共有面(結局は=コスト)で優位なV6を使うしかなかったということです。
また、直6エンジンのもう一つの大きなメリットとして、偶力振動によるエンジン本体の回転運動がないことが挙げられます。
直列エンジンはピストンが上下運動しかしませんが、V型エンジンは、ピストンが左右それぞれで斜めに運動することで偶力振動が発生し、全体としては回転運動をすることになります。
この回転運動は、車そのものの運動にも大きな悪影響を与えるため、それを打ち消すためのシャーシやサスペンション設計を強いられます。
現代の技術を用いれば、もちろんV型のデメリットを限りなく小さくすることは可能ですが、ゼロにすることはできません。
そのわずかな差が高級車には見過ごすことができない大切な要素でもあるのです。
V型6気筒と直列6気筒の比較表
比較項目 | V型6気筒 | 直列6気筒 | 補足 |
振動 | 大きい | 小さい | |
フィーリング | 普通 | 良い | シルキーと評される |
全長 | 短い | 長い | |
全高 | 低い(広角) | 高い | 180度が最も低い |
全幅 | 広い | 狭い | 狭さにもメリットが |
単体重量 | 軽い | 重い | |
燃費 | 良い | 悪い | 単純比較です |
もちろんそんなはずはありません。実は直6エンジンのコンパクト化に成功したからなのです。
それを可能にしたのが、もう一つのキーワード“48V化電源”です。
引き続き今後の自動車界のトレンドとなる48V化電源について解説させていただきます。
48V化電源
自動車の電源電圧は、最初は6Vでしたが大衆化された1950年以降は12Vとなり、今日まで60年間変わっていません。
これほど長い間変わってこなかった電圧が急に変わるはずがありません。
今回お話する48V化はあくまでも大電力を必要とする部品に限った話であり、パワーウィンドやカーナビなどの電装品類については、これまで通り12Vで使われ続けることを前提にした変革となります。
さもなければ、これまで12Vで世に出回っている全ての製品を48V対応しなくてはいけなくなりますから。
なぜ48Vなのか
12Vの通常電源とは別に設けるのならなにも48Vという中途半端な値ではなく、ハイブリッド車のように数百Vでもいいように思えます。
しかし、60Vを超える電圧は人体にとって危険で、万が一の事故時に備えた安全対策が必要となります。そこで、12Vの倍数で60V未満の最高値として48Vが採用されることとなったのです。
48V電源で何を動かしたいのか
48V電源を導入するのにはもちろん理由があります。
これからの時代の厳しい排ガス規制をクリアするためになくてはならない高電圧で動かすもの、つまり“モーター”の導入です。
ISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)と呼ばれる従来のオルタネータ(発電機)と回生ブレーキ、セルモーター(スターター)、パワーアシスト用モーターの全てが一つに集約されたものの登場です。
今回のS450では、エンジンとトランスミッションの間に三菱電機製のISGが組み込まれています。この配置場所も重要な要素の一つで、従来のホイールに取付けられる回生ブレーキとは異なり、バネ下重量の増加による運動性能の劣化を防げます。
48V化の恩恵は他にも
せっかく48V化したのですからISGだけではもったいないですよね。
電動スーパーチャージャー、電動エアコン、電動パワステ、これまで12Vでは電動化できなかったあらゆる機能をここぞとばかりに電動化することに成功しました。
単に動力が電気に変わるだけではありません。
電動化=綿密なコンピュータ制御が可能になるということです。
さらには、ベルトで何も駆動する必要がなくなり、フリクションロスの軽減とクラッシャブルゾーンの確保まで可能になってしまうのです。
フリクションロスの低減は燃費やドライブフィールの向上に大きく寄与します。
S450での統合制御
メルセデスの新開発450グレードがいかに革新的技術の集大成かがご理解いただけたかと思います。
技術は存在するだけでは意味がありません。
実用的に使えてこそ価値を発揮します。
今回のS450では、3リッター直列6気筒エンジンにさらに従来型の排気を利用したターボを装着、それに加えて発進トルクをISGのモーターがアシスト、さらに低回転時には電動スーパーチャージャーが加給と、ドーピングのオンパレードです。
これだけの複雑な要素を高度な制御技術で見事に調合してみせるのですから、その技術力には感動すら覚えます。
おっと、感動するのはまだ早いですね。乗ってみるまで車はわからないものですから。
いよいよ試乗
実は今回の発表会でも実車を運転することは叶わないと諦めていました。
ところが、なんとサプライズで本国から急遽持ってきてくれていました。
W222後期型Sクラスには先進の運転支援技術も大量に装備されていますが、すでに半年前に発表された状態と変わりありませんので、今回は450独自のパワーユニットに焦点を絞らせていただきます。
走り出した瞬間からわかる直6エンジンの滑らかさ!
現代の技術をもってしてもV6と直6でここまで明確に差が出るとは、驚きです。
以前試乗したV6エンジンのS400とは全くの別物です。滑らか、シルキーとしか形容のしようがありません。
信号の先頭で発信加速を試してみましたが、いつまでISGがアシストして、どこから電動スーパーチャージャーで、どのあたりでターボにバトンを渡したのか?全くわかりません。
見極めてやろう、ラグを感じ取ってやろうと意識しているのにも関わらず、わからないのです。
まるで、大排気量自然吸気エンジンです。
ダウンサイジングが猛威を振るう昨今においては、かのエンジンこそ魂のフェラーリですら、明らかにラグのあるターボ車に成り下がっているというのに。
制御技術がずば抜けているとしかいいようがありません。
切り替わりがわからないだけでなく、フラットに右肩上がりにパワーが増していくのがよくわかります。(高回転は普通のターボですので、上のレスポンスはそれなりです。)
個人的には半年間待った甲斐があり過ぎて、その場で発注しました。
4月納車予定です。(3月にもできたのですが、すぐに自動車税が来るのが嫌だったので。)
疑問点
ここまでのところ新技術に関する称賛しかなかったのですが、どうしても違和感を覚えた点があります。
室内で実物のエンジンルームを見学していて気付いたのですが、最近の高級車では珍しいほどエンジンの搭載位置が前に来ているということです。おそらく、ISGを挟んだ分だけエンジンが前方に来てしまったのだと思われます。
これではクラッシャブルゾーン問題では本末転倒ですし、重量配分による運動性能の劣化を引き起こしかねません。このあたりに対するメーカーの考え方は今後確かめてみたいと思います。
納車の模様と共に続報をお待ちください。
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